摩擦
スキー板やスノーボードが滑るかどうかに関して一番重要なのは、板・ボードのソールと雪面の間にできる水の膜の厚さと言われます。
スキー板やボードが雪面を滑っていくと、摩擦が発生し、その摩擦熱等で雪が解けます。そして、ソールと雪面の間には水の膜ができます。
ここが面白いのですが、下記の図のように水の膜が薄すぎると抵抗が強くなり、また、厚すぎても抵抗が強くなることが分かっています(縦軸が摩擦で横軸が水膜の厚み)。
Wikipediaより引用
ネトネトした油と比べると水はだいぶサラサラしていますが、それでも、丁度良い厚みの水の膜があると潤滑油のような働きをします。
しかし、低温下では、雪は結晶化していて砂のようになっていて、しかも多少の摩擦熱では大して融けませんから、まさに砂の上で板を滑らすようになり、摩擦が強くなります。
その反面、春スキーのようにただでさえ雪が融けているような状況で滑ろうとすると、毛細管現象で水の膜がソール面にべっちょりとついて、これまた摩擦係数が高くなるわけです。
つまり、水の膜が無さ過ぎてもあり過ぎても好ましくなく、丁度良い厚みを実現するのが理想となってきます。
ここから、ワックスの種類が登場します。
温度別ワックス
どのワックスメーカーも複数種類のワックスを出していますが、基本的にワックスは気温もしくは雪温別に分かれています。もっとも、ソールと雪面の摩擦の話ですから、大事なのは雪温で、ただ、雪温は普通はわからないので目安として気温別になっているだけです。
結論から言うと低温仕様のワックスは硬いワックスです。
低温下では、雪がきっちりと結晶化していますから、雪の先がとがっていて、柔らかいワックスだと当たり負けしてしまい、雪面の水膜化が不十分になると同時に剥がれ易くなります。
したがって、本来的には、雪の結晶を破壊して進む硬いワックスというのは柔らかいワックスより摩擦係数は高いのですが、低温下では、雪の結晶に打ち勝って、潰しながら水膜化していく硬いワックスが適しているとされます。
その反面、雪の結晶が崩れている高温下では、雪が水膜化しやすく、かつ、ワックスが雪に当たり負けする心配もありませんから、もともと摩擦係数の低い柔らかいワックスが適しているとされます。
以上のように、各メーカーが対象温度範囲ごとに複数のワックスを出していますが、基本的には硬さが違うだけで、温度が外れると全く滑らなくなるとかそういうことはありません。
基本的にハイシーズンはこれ一本で十分です。
なお、実際には、温度が低くても雪が降ってから何日も経過していて(その間に散々上を滑られて)、それが原因で雪の結晶が崩れている場合や、温度が多少高くとも強風が続き雪面が硬く固まっている場合、海の近くで雪が湿っている場合など、温度だけで割り切れるものではありません。したがって、仮に雪温を精密に測定したとしても、それだけで決められるわけではなく、様々な要因を考慮して決める必要があります。
フッ素入りワックス
また、ワックスは、フッ素配合なしのパラフィンワックス、低フッ素ワックス、高フッ素ワックスの3種類に分けられます。
毛細管現象で水はソールに張り付こうとします。そして、これは摩擦係数を高くすることになります。
その結果、本来的にソールは撥水性の素材が適していることになります。
そこで、フッ素を配合した撥水性のワックスが登場するわけです。SWIXは、ソールと雪面の間の水膜がフッ素の撥水性により、コロの役割を果たすと説明しています(コロとは、ピラミッドの石を運ぶ時に下にひく丸太のようなもの)。
したがって、フッ素配合のワックスの方がよく滑るのは間違いありませんが、その反面、高価になります。
どのメーカーも、LF(低フッ素)とHF(高フッ素)という二種類のフッ素入りワックスを出しているのが通常ですが、特にHF(高フッ素)ワックスは非常に高価で、競技選手でもない限り日常的に使いたくなるような価格ではありません。
さらに、常にフッ素含有量が高ければ高いほど良く滑ると断言できるのかというと、そんなことはありません。
上述したように低温下では、むしろ水の膜が薄すぎることの方が問題となってくるわけですから、フッ素の重要性は春スキーなどと比べてだいぶ落ちるとされています。
フッ素が入れば入るほどソールへの吸着が悪くなりますから、あまり必要のない場面で高フッ素ワックスを塗ることは逆効果ともいえます。
もっとも、では低温下ではフッ素入りワックスはLFであっても無意味なのかというと、そこは議論が分かれているところですが(低温下では水の吸着はほとんど問題にならないという考えと、そうはいっても雪の一部が融ける以上撥水性は必要という考えの対立)、レジャーレベルでは基本的に不要だと思います。
フッ素入りの効き目は春スキーで試すと良くわかります。