言葉遣いの混乱
ベースワックスと滑走ワックスという言葉をめぐっては情報が錯綜・混乱していますが、その原因は単純に言葉遣いにあります。
特に、ベースワックスという言葉遣いが混乱を招いているので、そこから説明します。
ベース作り
新品のスキーやスノーボードを買った場合、ソールには全然ワックスが浸透していませんから、まずソールのミクロレベルの凸凹にしっかりとワックスを浸透させる必要があります(競技選手のシーズン前のベース作りも同じ)。
ここで、ガリウムのHP等で、ピンク3回、バイオレット3回、ブルー3回(できれば各10回以上)ワックスをかけてベースを仕上げるなんて解説を見たことがある人もいるかもしれません。
ソールにワックスを浸透させてしっかりとしたベースを作りたいので、本当はある程度硬いワックスでカッチリと仕上げたいのですが、スカスカの状態でいきなり硬いワックスを浸透させるのは難しく、かといって無理して高温のアイロンを執拗に当てると、焼け付きのリスクが高まります(通常焼け付きというと0か100の世界で語られますが、厳密には熱で少しずつ劣化します)。
そこで、柔らかいワックスを低温でじっくり浸透させることから初めて、少しずつ硬いワックスを使い、最終的にソールをかっちり仕上げるわけです。
ソールにしっかりとワックスが浸透していれば、シーズン中、様々なコンディションに応じていろいろなワクシングをしても、持続性を維持することが出来ることになります。
まず、こういった新品の使い始めまたはシーズン前のベース作りに使われるワックスをベースワックスと呼びます。
フッ素ワックスの下地
下記の記事でも説明しましたが、フッ素入りのワックスは滑走性は高いのですが、ソールへの吸着力が弱いです。
そこで、ソールへの吸着力の強いフッ素なしのパラフィンワックスを下地として塗ってから、フッ素入りワックスを塗ります。
このように、吸着力の弱いフッ素ワックスの持続性を高めるために、下地、つまりベースとして塗るワックスをベースワックスと呼びます。
本質的にはベース作りと同じもので、状況に応じて最終的に表面に塗るワックスの持続性を維持するためのものです。
言葉遣いの混乱原因
まず、ベース作りの場合に使われるワックスはフッ素なしのパラフィンワックスです。
フッ素の撥水性は雪面と接するところで必要になるわけで、滑走前にワクシングすれば十分で、ソールの奥の方に浸透させる必要はありません。
そこで、ベース作りにはパラフィンワックスが使われます。
しかし、ベースづくり自体が、競技志向の方など本格派の人以外にはあまり関係のない話です。
問題はフッ素ワックスの下地に使われるワックスです。
フッ素入りワックスの下地としては何が使われるのでしょうか。
基本的には、フッ素なしのパラフィンワックスですが、SWIXなんかは、高フッ素ワックスの説明で、ベースはパラフィンワックスか低フッ素ワックスを使ってねと説明していたりします。
つまり、低フッ素ワックスがベースワックスに使われることもあるわけです。
何が言いたいかというと、「ベースワックス」というのは、「滑走ワックスの持続性を高めるために下地として塗るワックス」のこと意味するのであって、ワックス製品をベースワックスと滑走ワックスの2種類に分けることはおかしいわけです。
もちろん、通常の場合、ベースワックスはフッ素なしのパラフィンワックスで、滑走ワックスはフッ素入りのワックスです。
しかし、滑走ワックスとして高フッ素ワックスを使用する時に、ベースワックスとして低フッ素ワックスを使う場合だってあり、つまり、低フッ素ワックスは滑走ワックスとして使用される場合もあれば、ベースワックスとして使われる場合もあります。
つまり、「低フッ素ワックスは滑走ワックスであってベースワックスではない」という言い方は厳密には間違いであり。ベースか滑走かは用途の違いであり、ワックスの種類ではありません。
その逆で、パラフィンワックスを滑走ワックスとしても別に問題ありません。
滑走ワックスというのは、英語のGlide Waxの訳だと思いますが、海外のサイトや本で、Glide Waxの解説を読むと、Glide Waxには、パラフィン、低フッ素、高フッ素の3種類あると書いてあります。
そして、「高フッ素ワックスを滑走ワックスとして使う場合には、吸着力が弱いので、下地(ベース)としてパラフィンワックスか低フッ素ワックスを塗ろう」、「低フッ素ワックスを滑走ワックスとして塗る場合は下地(ベース)としてパラフィンワックスを塗ったほうが持続性が高くなるよ」などと説明されています。
あるワックスを塗る時に、ベースとして塗るか、滑走ワックスとして塗るか、目的の違いはありますが、ワックス製品がベースワックスと滑走ワックスに分かれるわけではありません。
競技レベルではフッ素入りワックスを滑走ワックスに使用するのが当たり前ですから、パラフィンワックスが滑走ワックスとして使用されること(=フッ素入りワックスを塗らないで滑ること)がないというだけです。
その場合は、滑走ワックスたるフッ素入りワックスの持続性を高めるために、下地としてパラフィンワックスを塗るのが通常です。
しかし、レジャーレベルでは、フッ素なしのパラフィンワックスを滑走ワックスとして使うことに何の問題もありません。
そして、パラフィンワックスを滑走ワックスとして使うということは、ほとんどの場合、パラフィンワックス1種類を塗るだけを意味します。
もっとも、低温用の固いパラフィンワックスを塗る前に、浸透しやすいように、下地として、やわらかいパラフィンワックスを塗ってもいいですし、いきなり低温用を塗り込むよりは、持続性を高める効果はあると言えます(究極的にはベースづくりと同じ)。
基本的にこれ一本でどこでも十分滑ります。
言葉の混乱の弊害
こういった言葉の混乱から、「ベースワックスだけでは滑らない」「パラフィンワックスは滑走ワックスではなくベース作り用のベースワックスなので、それだけ塗っても滑らない」なんて言う都市伝説が生まれてくるわけです。
パラフィンワックスを塗った場合と塗らない場合を比較して、塗ったほうが滑らないなんてありえません。
このような言葉の混乱に加えて、ほとんどのコンディションでフッ素入りを塗ったほうがより滑りますから、競技としてやっているスキーヤーやスノーボーダーがしばしば「パラフィンワックスだけでは滑らない(滑るうちに入らない)」なんていうハイレベルでの比較を主張したりして、さらに混乱に拍車がかかっているわけです。